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前回の続きだそうですよ☆

コーラ
飲み干されない



竜崎と一緒にキラを捕まえることはできなかった。
月くんと一緒にキラを捕まえることもできなかった。
何も変わらないし、何も残らなかった。



コーラを飲んだくらいではもう元気は出ない。
ビールを空けてからでないと、ぐっすりも眠れない。
それでもコンビニに行くと、缶のコーラを買ってしまう。


誰も待っていない部屋で、ぷしゅっと音を立ててプルタブを引く。
ごくごくと半分くらい一気に飲むと、炭酸がせりあがってくるので、鼻をつまん
でげっぷをする。
誰もいないんだ。
「竜崎も飲みますか?」
独り言くらい言ってもいい。
「コーラ飲んだら、元気になりますよね。」
僕は1人なので全部独り言だ。
台所から友達の結婚式の引き出物でもらったグラスを持ってきて、
コーラを注ぐ。
テーブルの上にコーラを置いても、誰もいない。



いつの間にか眠っていて、目が覚めると、
テーブルの上には、昨日と同じ位置にコーラがあった。
昨日と変わらぬ量がそのまま残っている。
飲んでみると、ぬるくて、炭酸も抜けていて、甘ったるくて、
その後味はとても
苦かった。



FIN

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■お題『ケーキ』で書かせていただきました。
副題付いてますが…。





「Look up!」

甘くコンポートされた苺のスライスが花の様に敷き詰められているデコレーショ
ンケーキと、口解けの良いダークチョコレートでコーティングされたザッハトル
テ。
そのどちらを買うか、と、この男はいい年をしてショーウインドウにへばりつい
たまま、もうかれこれ20分は唸ったまま固まっていた。
この店に関して、私は生ケーキよりも焼き菓子の方を奨めたい。タルトやスフレ
など見かけはシンプルだがざっくりとした手作り感のある暖かさは、疲れている
時など喩えようもなく沁みる。

顔を上げろ松田。

引きつった笑顔の女性店員がいるカウンターの上に置かれたプレートには、大き
く「お勧め~当店自慢のこだわりタルト」と書かれているだろう。いい加減空気
を読め、この馬鹿。

「松田さん」

額を押し付けんばかりにケーキに見入ったままの後頭部に声をかける。

「松田さん」

返事はない。
私は溜息を付いた。そして彼の肩に手をかける。

「松田さん。」

冬地のスーツ越しに、彼の骨ばった肩の厚みを感じた。軽く揺さぶってみる。プ
レートの、方を指差して、もう一度私は彼を呼んだ。

「松田さん…。」


しばらく、待った。




合いも変わらず、松田はべったりとケースにはっ付いたまま、こちらを振り向き
もせずに悩み続けている。
私は自分の手の平を見た。
別段変わったところはない。

けれども。



幸せそうな家族連れが、私に見向きもせずにこちらに向かってくる。真正面から
ぶつかったはずなのに、何の衝撃もない。また人が来る。避けるそぶりすら見せ
ない。歩き煙草の、火がかすった。


あつくすらなかった。


ざわざわと、さんざめく人いきれの中、イルミネーションが瞬いて綺羅々々しい

今さら私は、自分が素足であることに気が付いた。
は、と再び溜息を付く。そうだ私はこれから行くところがあって、急いでいたは
ずなのに、何で呼び寄せられたのか、意味も分からずここにいる。

もうケーキのことはあきらめよう。もともと私の口に入るものではないのだ。

しゃがみ込んでいる松田に合わせてかがんでいた身体を起こし、私は立ち上がっ
た。
一度振り返る。背後からその表情は見えなかったが、恐らくなんら変わりはない
のだろう。

認めたくはないが、
何があっても、笑っていられるのが、お前の取り柄だ。

とうとう「ど ち ら に し よ う か な 」と小声で言いながら呻唸し
出した彼に背を向け、私は歩き出した。


「竜崎」


突然、松田が呟いた。

~*~*~*~*~*~


こんなに真剣に悩んでケーキを買うのは初めてかもしれない。
記憶力のない自分を呪いながらも、僕はうんうん唸りながら売り場で必死に考え
ていた。


(ここの………がとてもおいしいのですよ。
松田さん。)


以前、ふとした時、交わした言葉。
店の前を通った時に突然思い出して、激突せんばかりに勢いよくショーウインド
ウに向かっていってしまった。

くだらない感傷だと思う。
彼がおいしいと言っていた、それだけで、どうしてこんなに。
ええと、多分どっちかだった気がする。トルテ・タタン・オペラ・・・何か三文
字だったような。でも、三文字の洋菓子ってけっこうある。そして覚えにくい。


よく磨かれたガラスに、自分が映っている。
溜息を付くと、途端白く曇って、ないたように滲んだ。
彼がいなくなってから、ぽかりと何か大きな穴が空いたような、すかすかした気
分になる時がある。
塞がりかけたような気になっていても、それは日常のちょっとしたことで暗い底
知れぬわだかまりを口開いて、居ても立ってもいられなくさせる。

まっすぐ信じてこれた何か明るくて正しいものがあの日バッキリと折れた。
粉々になったそれは視界を霞ませるのだ。

僕は、

何の為にこうしているのだっけ?
何を思ってたたかっていたんだっけ?



ああ、あんまり考えたくない。


僕は何を取り返したいのだろう?


僕は、

何を失ったのだろう。





「竜崎」


彼の名が、思わず口をついて出た。
僕は深く項垂れた。
自分の中の闇の底へ、落ちていくようだった。






























































「顔を上げろ松田。」












稲妻にでも打たれたかのように、僕は目を見開いた。慌てて振り返る。誰も居な
い。いるはずがない。


懐かしい声など聞こえたはずがないのだ。


僕は知らないうちに立ち上がっていた。クリスマスの近い街並みは華やかで明る
い。
眩しいほどに。
皆幸せそうだ。それぞれの悩みや、悲しみを抱いて、それでも笑っている。









わらってる。








































~*~*~*~*~*~

今、僕はどんな顔をしているのだろう。
きっと、凄く情けない表情だ。
人が行き交う雑踏の中に、フッと白い影が消えていった気がしたけど、
瞬きする間のことだから、けしてけして、定かではない。

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お題:「ため息」



「よくできました。」

そう言って竜崎は僕のあたまをくしゃっと撫でる。

子供の使いか?

あんまりとぼけた言い方だったり、
たいしたことない仕事をしたあとのタイミングで、
そういうことをされるので、
ついムッとしてしまう。
バカにされてるのか?
なんなんですか。全くもう。

こないだなんて相沢さんや局長のいる前で。
恥ずかしいったらありゃしない。
年齢不詳の竜崎。
10代かも30代かもわからない、男とも女ともいっそ人間ともわからない不思
議な顔立ち。
だけどどうも彼は僕より年下なんじゃないかという気がしてる。
別にだからといって僕のプライドがどうこうという話ではなくて、
他のみんなからそんな扱いを受けてる僕がどう見えるのかって思うのは仕方ない
じゃないか。
どうして僕に限ってそんなにからかうんですか。

簡単な仕事をした時にだけ「よくできました」だなんて。
複雑な仕事はできないくせにっていうあてつけじゃないのか。
お願いだからヤメてください。


ある日珍しく僕に難易度の高い仕事が回ってきた。
ワタリさんが新しく開発したシステムの本庁での初期動作の留意点確認と設定。
これ、多分本当は模木さんに任せたかったんじゃないかと思う。
でも模木さんも他のみんなも手いっぱいで、それで比較的暇な僕に回ってきたの
だ。
僕なんかテストケースくらいにしか考えてないのかもしれないけど、僕だってこ
う見えてもちゃんと大学出てるんですよ。
いつだって失敗してばかりじゃないんですよ。



半日後、
しっかり結果をまとめて鼻高々の僕に竜崎はあっさりと「問題ないようですね」
とだけつぶやいた。

ははあ。なんですかそれ。
いつも「よくできました」とか言われてる仕事よりずっとがんばったんですけど

僕が失敗しないとつまんないとか言わないですよね。

「今日はイイ子イイ子はなしですかぁ?」

冗談で、若干の嫌味も混ぜて、そう言ってみた。

竜崎は目をぱちくりしてから「子供ですかあなた」と言った。

僕はショックを受けた。

今までのこと棚にあげて子供扱いを受けたのがショックだったわけじゃない。
もちろん、竜崎に頭を撫でてもらえなかったのがショックだったわけでもない。

イイ子イイ子はなしですかなんて
完全に冗談で言ったはずだったのに

竜崎に誉めてもらえないことにがっかりしている自分にショックを受けたのだっ
た。

なんたること。
思わず棒立ちになる僕に、竜崎はすれ違いざまに僕の後ろ頭を撓めるようにくし
ゃりと押し撫で、
「しょうがない子ですね」と言って部屋を出て行った。

あーあ。

ため息をついて竜崎の出て行ったドアを見つめる。

こんな扱い受けてやっぱり喜んでるなんて。
僕はどっかおかしくなったんだ。

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「待ち合わせ」


お題にあらず、でも、文章に、色んなお題をちりばめました☆(笑)



気付けば、しんとしている。
私はこの空気が、一番落ち着いた。

部屋の真ん中にある2人掛けのソファ。
そこへ足が赴く。

同じ部屋にいたのはわかっていたが、
松田は、ソファで眠りこけているようだ…

落ちないように外側に背を向けていた。
肘掛けを枕がわりにして。

勤務時間外なのは百も承知だが、思わず、
イラッとして、その背中を蹴りたくなった。

足を上げた瞬間、くるりと寝返りをうった。

起きていたのかと、足を引っ込め見てみると、
にやにやと笑った顔で、寝息を立てている。

「…馬鹿」

つんつんと、頬をつついてみたが、反応はない。
ソファから外れてしまった片足を触ってみる。

鈍い。

寝てしまえば、こいつは何をしようが、大概起きたことがない。

私は、すとんと、ソファの前に座った。
松田が背もたれだ。

ここは、松田と、私の待ち合わせ場所だった。
いつもここで、落ち合って、先を決める。

決めたわけではない、が、そうなっていた。

じんわり背中に松田の体温を感じる。
俯いたときに視界に入ったネクタイに指を絡ませてくるくる遊んだ。

ここで思いきり引っ張れば、さすがに起きるだろう。
いや、…このまま、寝顔を見るとしよう。

寄り添うことに抵抗、がないのは
この男が、初めてかも知れない。

その証拠に自然と、
足はここに向く。

松田が居ないときは、ここで、こいつを思って、
及んだこともある。

私らしくないことばかり、松田はさせてしまう。

「…ふふっ」

自嘲する。

松田はもぞ、と身じろぎした後、転がって、私にのしかかってきた。

「~~~、馬、鹿」

それを背中と肩で、押し返すと、
だらりと松田の手がソファアから外れた。

その手にそろりと、自らの手を重ねて、きゅっと握る。
しばらくそうした後、手を離すと、松田の体温を吸った手に熱さを覚えた。

そのまま、その手を、下へと滑らせる。
熱の帯びた手を、潜り込ませて、
辿り着いた部分にすり込むようにした。

びくりと身体が、動く。

はあ、

溜めた吐息を吐きだして、その熱を味わう。

は、

松田の熱は、私に、まわりやすい。
今の私を、見たら、松田はどう思うのか。
…それとも、煽るのだろうか。

静かに吐息を立てる、松田を憎く思うと同時に、安堵する。

そのまま、私は果てた。

荒い息を吐きながら、そっと近づいてキスをする。

松田さん、好きです。
と、胸の内で、呟いて。

そして、その場を立ち去った。

「おやすみなさい」

 


部屋から、竜崎が居なくなって、しんとした時に、
僕はソファで両手で口を塞ぎながら、
言葉にならない言葉を必死でこらえながら、
のたうちまわっていた。

…竜崎が手を重ねたときから、僕は起きていた。

手が離れたとき、
そのまま、抱きつこうと思った、その瞬間。

僕は固まってしまった。
寝たふりをして、竜崎を見守った。

痛いほど、伝わる、竜崎の…気持ち。

戸惑ったり、混乱したり、なんだ。

何度か、身体を合わせていたけど、心が通ったと思ったことは実はなくて、
たった今、それを、してしまったような気がした。

竜崎は、それを知らない。

僕は、ソファで悶えながら、
次の待ち合わせを、心待ちに思った。

かっかする頭の中で、手を引いて、それで…と、シュミレートする。

次も、寝たふりして、待ってよう。
…そう、僕は、ずるい。

でも、それは、竜崎にかなわない僕の、唯一の手だてなんだ。

…この待ち合わせだってそうだ。
お互いがお互いを思わなければ、待ち合わせることなんてない。

…竜崎、次は、


僕の気持ち、伝えていいですか?


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サイトの方にあります伊出松「時の旅人」
www6.ocn.ne.jp/~k.sakaki/deathnote.text19.html
に至るまでの経緯テキストを投下~☆

お題:「プレゼント」

毎日が、ただ漠然と過ぎていく。
喪失感と隣り合わせの毎日。

変化のない日々。
それは、突然だった。

僕宛に届いた、小さな郵便物。
封筒を裏返してみても、名前はない。

手紙にしてはふくらみがあって、
僕は怪訝な顔をしてそれを手の平に受け止め、重みを量る。

何だろう…?

その重みは、何だか、僕の心にのしかかるようで、
ためいきをついた。

封筒の端を千切り、ひっくり返してみた。

冷たい金属が、手の平に落ち、直ぐに僕の熱を吸って、
同じ温度になった。

ちゃりと音を立てる。

「鍵」

どこの鍵かはわからない。
そしてこれを送った人もわからない。

なのに、僕は、思ってしまう。

「…竜崎なんですか?」

連なる、鍵。
ふたつとも形が違っていた。

僕は部屋で、その鍵を見つめた。
そのまま、朝を迎える。
その日、捜査があったのだけど、気になって仕方なくて、
抜け出して、公園でまた、その鍵を見つめた。

何でもないかも、知れない。
でも、何でもなかったことにしたくない。

何でもなかったことにしたばかりに、
僕はこんなになってしまったんだから。

何だって良い、何だって良いんだ。
きっかけさえあれば。

僕は、それを自分から見いだせない。
これは、それを見抜くようだった。

もう居ない、あの人が僕にこんなものを送れるはずがなかった。
だけど、僕は、そう思いたかった。


その鍵は僕の誕生日に届いた。
それが、偶然でも、いい。

導かれるままに。

何気なく封筒の中を覗いてみると、文字が見えた。
荒くシャープな文字に、震える。

「HAPPYBIRTHDAY」流れるような筆記体。

間違いない。

渡されず、届かないまま、何年もこれはさまよったんだろうか。
それとも、竜崎は、どこかで。


僕は思わず、
「…今頃、今更ですよ」と、呟いた。

遠くで、竜崎が笑って、る。

届かない手紙はありません。
いつか、あなたは気付きますから。

「…」

頷く竜崎は、慈しむように僕を見て、消えた。

「竜崎、待っていてください」

そう決めた途端、身体が軽くなった。
手の平の鍵を見つめると、きらりと輝いてる。

それを握りしめる。

「…ありがとう」

いつも、いつだって。

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